日本肺胞蛋白症患者会

肺胞蛋白症について

自己免疫性肺胞蛋白症の血清診断

血清抗GM-CSF自己抗体濃度-血清診断についての考え方

肺胞蛋白症の92%を占める自己免疫性肺胞蛋白症を確診するためには、血清中の抗GM-CSF自己抗体の測定が必要です。これまでの研究から、この抗体には「IgG型」「IgM型」「IgA型」があり、IgG型が病因として重要で、IgM型は発症には重要でないと考えられています(根井ら. Am. J. Physiol. Lung, 2012)。

IgA型の自己抗体の役割はよく分かっていません。抗GM-CSF自己抗体の中和能は、非常に高く、GM-CSFに対する結合は非常に強いことが分かっています(内田ら. Blood, 2004)。
市販の抗GM-CSF自己抗体測定キットは、下図のような仕組みで測定しています。組換えGM-CSFを固定した96穴プレートに非特異的なIgGの結合を阻止する特殊なブロッキングを施し、210倍に希釈した被験者の血清を入れて、固定したGM-CSFに結合させます。よく洗った後に、各ウエルに希釈したパーオキシダーゼ標識抗IgG抗体を添加し、GM-CSFに結合したIgG型抗GM-CSF自己抗体を、基質を添加して検出します。

測定には、既知の濃度の標準ヒト型モノクローナル抗GM-CSF抗体を同時に反応させて、検量線を引いて、被験者血清中の自己抗体濃度を決定します。

  • このキットは医学生物学研究所から2020年に発売され、検査会社のSRLが購入して受託測定しています。
  • 感度100%、特異度97%です。
  • 健常者血清中にも非常にわずかですが、抗GM-CSF自己抗体が0.15±0.11 U/ml (最大 0.71, 最低0.018 U/ml, N=90) 検出されます。
  • 一方、自己免疫性肺胞蛋白症の患者血清では、90.95±123.0 U/ml (最大718.7, 最低2.59 U/ml, N=78)検出されます。
  • 健常者と自己免疫性肺胞蛋白症の患者血清のCut Off値は、ロジスティック回帰分析から、1.7 U/ml です。

肺疾患ごとの血清抗GM-CSF自己抗体濃度の比較

上のグラフを見てください。213例の自己免疫性、40例の続発性、5例の遺伝性、167例の肺胞蛋白症以外の肺胞蛋白症と鑑別を要する肺疾患の血清抗GM-CSF自己抗体濃度を比較したものです。このデータを用いたロジスティック回帰分析により、様々な抗体濃度に対する疾患の発症確率の予測を行うと、
ある患者の血清抗GM-CSF自己抗体濃度が15.0 U/mlであったときに、その患者さんが自己免疫性肺胞蛋白症である確率は90%21.0 U/ml以上であれば99%の確率で自己免疫性肺胞蛋白症の患者であるといえます。

もちろんこの確率は、比較する他の肺疾患のサンプル数を増やしていけば変わるかもしれません。
あくまで現時点での確率です。

臨床的な判断としては、HRCT上スリガラス影をみとめ、血清抗GM-CSF自己抗体濃度を測り、1.7 U/ml 以上15.0 U/ml未満であれば、気管支肺胞洗浄液の外観や肺生検などの所見を合わせて、自己免疫性肺胞蛋白症の診断を行い、21.0 U/ml以上であれば、そうでない確率が10%未満あるけれども、自己免疫性肺胞蛋白症を強く疑う状況といえます。