日本肺胞蛋白症患者会

GM-CSF吸入療法について

吸入器によってGM-CSFを肺胞に届かせるには?

吸入器はどうやって、霧(ミスト)を発生させるのでしょうか?

GM-CSF吸入療法に使われているのは、「ジェット型」のネブライザーと「メッシュ型」の2種類のネブライザーです。どちらも3μくらいまでの細かな粒子(ミスト)を発生させることが可能です。

両者の最も大きな違いは、ミストの粒子径ではなく、ミストの密度です。メッシュ型ネブライザーの方がミストの密度が高い(濃い)と言われています。それは、霧の作り方が全く違うからです。
(「超音波型」のネブライザーは、超音波がGM-CSFを壊す可能性があるので、お奨めしていません。)

ジェット型のネブライザーの仕組み

ジェット型のネブライザーは、空気を吸入器に送り込むコンプレッサー(ポンプ)が必要です。例としてパリ社のLC スプリントスターネブライザーを取り上げます。

ポンプから左図のG「送気ホース」を通って送り込まれた空気は、ネブライザー下部FにあるノズルEの小さな孔から、勢いよく吹き出します。

ノズルにはDの「インサート」と呼ばれる筒が差し込まれており、ネブライザー下部に入れたGM-CSFの薬液は、ノズルとインサートの隙間を毛管現象によって、ノズルの上端までせり上がります。ノズルから吹き出す空気の流れは、周囲にある薬液を舞い上がらせようとします(ベルヌーイの原理といいます)。このとき、薬液は細かい霧(ミスト)となって、ネブライザー上部Cの筒の中に溜まります。マウスピースを加えて、空気を吸うと筒の中のミストを吸い込むことになります。

このとき、吸う空気は、1回に500〜1,000mlくらいと思われますが、当然のことながら、ネブライザー内の空気だけでは足りないので、B蓋にあるプラスチックの弁が開いて、ネブライザー上部に溜まったミストを希釈しながら、外気が入りこみ、マウスピースを通って口の中に吸い込まれていきます。

メッシュ型のネブライザーの仕組み

メッシュ型メッシュネブライザーでは、特殊な形状の数千個の穴が開いた金属製の膜を高周波振動させます。この振動により、薬剤を加熱することなく、霧(ミスト)を発生させることができます。タンパク質構造は非常に複雑ですが、微粒子化の際に一度だけ膜を通過するため、壊されることはありません。そのため、ミストの中のGM-CSFは生物学的活性を維持していて、肺胞に届くと効き目を発揮できます。

 

どのようにしたら効率よく肺胞にGM-CSFを届けられるでしょうか?

吸入したGM-CSFはどのようにして、病気の部分にたどり着くのでしょうか?
下の図1は、ヒトの気管支の模式図です。

図1:気管支の模式図
吸った空気の通り道、18分岐よりも
遠くへ到達したネブライザー粒子は肺胞に到達する

吸入した空気は、12cmの長さの気管を通って左右の主気管支に分かれます。そこからさらに分岐を繰り返し、17回分岐したところで、終末細気管支になります。成人で、気管の直径は、1.8cm、終末細気管支の直径は、0.054cm(0.54mm)です。空気を吸うときの気管での流速は、390cm/秒の速さですが、分岐をくりかえして、終末細気管支のところに来ると、5.4cm/秒になります。

終末細気管支の先は、呼吸細気管支とよばれる直径が0.04~0.05cm の細い管となり、行き止まりのところに肺胞があります。吸入した空気の速さは、肺胞の手前では、0.09 cm/秒ととてもゆっくりになります。

肺胞蛋白症の患者さんでは、主として肺胞の部分に老廃物が溜まり、空気の中の酸素を血液の中に取り込む効率が悪くなるために呼吸が苦しくなります。

GM-CSF吸入療法では、吸入する粒子(大きさが3~5μmくらいです) を、病気がある肺胞まで到達させる必要があります。図1の17の終末気管支までは、気管支の壁には繊毛を持った細胞があり、粒子が壁にくっついても、繊毛の動きで上へ上へと排出され、痰となって、口から出ていくか、飲み込まれて消化されてしまいます。これに対して、呼吸細気管支から先に到達して壁にくっついた粒子は、ゆっくりと壁づたいに広がり、肺胞まで拡散することができます。 

吸入した粒子が呼吸細気管支まで到達するのは、何パーセントくらいでしょうか?

吸入器の機種によって異なりますが、吸入された粒子の90%以上は、口の中や咽頭、喉頭、気管、気管支の壁にくっついて、やがて排出されてしまいます。吸入のしかたやネブライザーの性能にもよりますが、数パーセント未満の粒子が、図1の18~22の呼吸細気管支に到達し、拡散により肺胞へと届くことになります。

呼吸細気管支の先へ効率よく粒子を送り込むには、どうしたらよいのでしょうか?
図2:噴霧ボタン

第1には、ネブライザー下部の下にある図2の噴霧ボタン(パリ社の Pari BOY Pro に付属。単品でも買えます )を装着して、息を吸う時だけ霧が出るようにすることです。
息を吐く最中は霧を供給しても粒子は外に出てしまうため、無駄になってしまいます。この方法を用いることで、効率よく粒子を吸入できます。 

もう一つには、呼吸をできるだけ、ゆっくり行うことです。
呼吸回数が速いと図3の左のように、吸入薬液は、終末気管支までしか到達せず、肺胞には到達しにくいとされています。
ゆっくりと呼吸をすると、図3の右のように、肺にまで薬液が到達します。

図3:吸入速度の違いによる吸入効果の差

それでは、具体的にどのように吸入したら、GM-CSFは肺胞に効率よく到達するのでしょうか?
次にその呼吸法を紹介します。